悲しき、優しき人に捧ぐ。
静かに。

言葉が作れない悲哀は、慈愛にも似て静かで。
世界の半分が幸福で、もう半分がそれだと知る。
他者だから、苦しみ。
己の半分だから、揺れる。
白い夜が、白い部屋が。
灰の匂いが、黒の色が。
悲しげな笑い声が。震える空気が。
ぎこちなく。
夜の眠りが怖くなる。朝にはもう、消えてるかもしれないと。
私の遠い過去を、誰かが今、この世界で。
閉ざされて、息が詰まって。物語の祝福を信じたい、けれど。
けれど、奇跡という言葉の微かなることを知るだけで。
手が届かない悔しさに。現実が雨を降らす。
生きて、生きて、そして。
それでも、せめて。その時には。
潰える日々と。紡ぐ日々に。言葉を残す。
安らかな愛を。
痛みに祈る。その悼みに、ただ祈る。舞台の誰かに送る。天上と地上に。
安らかな愛を。
不可避であれ、私達は支えられる。いずれ、誰かとの過去を無数に失う。
安らかな愛を。
それを知りながら、怯えてはならないのでしょう。
安らかな愛を。
そして、失った過去と未来に、溜めた涙を零し続ける優しさを。
安らかな愛を。
それが誰かへの花である限り。
ただ、安らかな愛をその手に。
彼に。仮面に。世界に。そして貴女に。